馬に積まれたのは入るだけの食料とニーナが作った二十個の《癒やしの香水》。

(食料と一緒に香水を……? 一体誰に?)

 ニーナの頭ではこれから行き着く場所など見当もつかない。
 ロルフは手慣れた様子で優雅に馬を走らせる。振り返ると王城はどんどん小さくなり、ニーナの実家付近さえ通り過ぎて、王都の中心部から離れた場所に辿り着く。
 それに農耕を営む村がある方面とは全く逆方向だ。

(この先に村なんてあったかしら……?)

 ニーナは思わずぽかんと口を開けてしまう。
 そこはウィルデン王国を囲む《神々の森》だった。

「ここからはゆっくり行こう」

 馬の進行を緩やかにしたロルフは迷うことなく神々の森に足を踏み入れた。ニーナは驚いておずおずとロルフのマントを引っ張る。

「あの、ここは神々の森ですよね? 神々の森は立ち入り禁止なのではないのですか?」
「ああ。表向きには、な。本来であれば竜の聖なる力が結界となり入ることはできない。だが王が病に伏せ、実質的に力を持つのが王太子一人になった今、森の一部はこうして国内からであれば簡単に入ることができてしまう……それに、違法だが隣国との往来もできる。国境のようなものだな。そんなこの森を護ってくれている誇り高い者たちがいる」