そんな凄まじい溺愛の言葉はなんとか彼の心に押しとどめられたのだが、顔にはしっかりと彼女が好きすぎてたまらないという表情が現れている。
 目の前にディルヴァールとロザリアがいたとしたら、からかわれていただろう。
 ──いや、二人ならばすでに気づいて目配せのみで会話をして面白がっている頃だ。

(こんな可愛い奥さんがいて、俺は、幸せなのかもしれない。でも……)

 そっと彼は彼女の頭を自分の肩に寄せてひと撫でして微笑んだ。

「もう、俺の心は君が好きすぎてドロドロなんだ。そんなところを見られたら、嫌われるかな……」

 呟いたアンリの手に何か温かいものが触れる。

「──っ!!」

 眠りの中をさまよう彼女は無意識で彼の手を握った。
 そうしてアンリの胸に自分の顔を摺り寄せて気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てる。

(君は、どれだけ俺の心をかき乱すの)

 エリーヌの手をそっと握り返したアンリは、自分の肩で眠る彼女の額にちゅっと唇をつけた。

(他の男になんかやらない。絶対……)

 まもなく日が昇ろうと、薄明るくなってきていた──