「だまれっ!!」

 傍にあった花瓶を床に払うと、つんざくような甲高い音と共に花たちが床に散る。
 わずかに濡れた彼の手はエリーヌの頬を撫でていく。

「おやめください」
「ふん、あの毒公爵に絆されたか」

 その言葉を言いながらひどく顔を歪ませたゼシフィードは、怒りがふつふつと湧いてきたのか、語気を高める。

「高貴なお前が、変わったなあ!!」
「私は高貴でもなんでもございません。ただの……」

 歌手、という言葉を言いたくても言えなかった──

(声がない、自分にはもう、歌える声が……)

 その一瞬の力の弱まりを感じたゼシフィードは、にやりと笑ってエリーヌの腕を掴んだ。

「──っ!!」
「もう一度、私のもとに戻ってこい。そうしたら、歌声を戻してやる」
「……え?」

 困惑するエリーヌをよそに、彼は不敵に笑った──