月の光が雲に隠れて見えなくなったその瞬間に、女は現れた。

「遅かったですね」
「ええ、今日は少しエリーヌ様が遅くまで起きていらしたので」
「そうですか、夕食は楽しそうにされていたとシェフから伺いましたが」
「珍しくアンリ様がワインを開けておりましたわ」
「ほお、確かにそれは珍しいですね。半年ぶりくらいでしょうか」
「エリーヌ様への想いが駄々洩れで、見ているこちらが恥ずかしくなるほどでしたが……」
「鈍感そうですからね、エリーヌ様は」
「ええ、いつアンリ様の想いが届くことやら」

 そうした話をしていると、月が雲から現れて二人の姿を映し出す。

「そういえば、エリーヌ様が壁の存在に気づかれました」
「──っ!! 中には……」
「入っておりません。ルイス様は彼女に少し興味を持っておいででしたが」
「お二人が顔を合わせるのも時間の問題かもしれませんね」
「そのためにはいくつかの障害がありますが」

 そんな話をしながら、男が胸元から封書を出して女に渡す。

「これは?」
「招待状です、第一王子からの」