何度か招待を受けているこの王宮での夜会でも、いつも一人で暗い場所で深呼吸して気持ちを落ち着かせていた。

「やっぱり綺麗だったわね~!」
「もううっとりしちゃうわよ、エリーヌ様の歌声は」

 エリーヌの頭上にあるバルコニーにいるであろう令嬢たちが、歌姫のことを賛美していた。

「だって、あの歌声でしかも!」
「「ゼシフィード様の婚約者っ!!」」

 ふふ、もう女の子の憧れよね~!なんてうら若き声が聞こえてくる。
 その声を聞き、むず痒くて少し恥ずかしい。
 自分のことを話されているのを盗み聞きする形になり、エリーヌはなんとなく彼女たちに申し訳ない気持ちになった。

「自信を持ちなさい、エリーヌ」

 エリーヌはこれだけ名声を浴びながらも、毎日精進を続けており、もっと人々の心に響かせようとしていた。
 なんとなくそれには『何か』が足りない気がしてならなかった。

(もっと、もっと素敵に歌いたい……)

 そう彼女が思ったその時、エリーヌの視線に黒い影が映る。
 誰かが来たのだ、と思って顔をあげた時に、すでに彼女の”それ”は奪われていた──


「ん……」