見事に歌姫に復帰した翌日、ルイスも同じ薬で目が戻った。
 彼は少ししたら画家としての修行をするために家を出るのだという。
 そんな弟の旅たちを寂しそうにして研究室の机に突っ伏しているのは、歌姫エリーヌの夫アンリであった──

「アンリ様、もういつまでそうしているつもりですか?」
「だって、ルイスが……ルイスが……」
「もう、自由にしてあげたいといったのはアンリ様ではないですか」
「でも……」

 子供のように口をとがらせて、机の上に指文字で意味のない図形を書いて拗ねている。
 こうなればもうしばらくは無理だなと思ったエリーヌは、伸びをしながらわざとらしく願望を言ってみた。

「私も舞台修行に出ようかしら」
「え……?」
「やはり歌が好きですし、各地を回ってみたいというのが夢でしたから」
「だめ!! だめだめだめ!!!」

 そう言いながらアンリはエリーヌをすっぽりと自分の腕の中に閉じ込めて逃げられないようにしてしまう。

「アンリ様?」
「絶対逃がさない」
「ん……!」

 そう言うと強引に壁にエリーヌの身体を押し当てて唇を奪う。