女は彼女のもとを訪問した時のことを思い出す。
 エマニュエル家領から馬車で2日かけて向かったその伯爵領で、彼女──フェリシーにあった。
 フェリシーはベッドからゆっくりと起き上がると、そのまま女に抱き着いた。

『ロザリア……来てくれたの』
『奥様、ご無沙汰しております』
『ううん、ベルナールとクロエの元に仕えてるっていってたけど……二人は……』
『はい、5年前に……』
『聞いているわ。私は惜しい友人たちを失くしたの。なかなか立ち直れなかったわ』
『はい、奥様……』

 女はフェリシーとの会話を思い出して目を閉じる。
 彼女が両手で顔を覆って涙を流している姿が思い出された。

「フェリシー様は、これを二人の墓前に供えてほしいと」

 女は男に持っていた押し花の栞を渡す。

「あなたからそれは供えてください」
「ですが……」
「あなたからのほうが喜びますよ。きっと」

 女は少し思案した後で差し出した手を引く。
 もう一度大事そうに胸元にしまうと、両手をあてて祈りをこめた。
 フェリシーに言われた最後の会話を思い出す。


『ロザリア、私のことはエリーヌには死んだといってちょうだい』