♦︎♦︎♦︎

「照、お前どこに就職したんだ?」

外の景色をぼーっと眺めていた俺に、急にじいちゃんがそんなことを聞いてきた。

「普通の会社だよ。平社員」

「そうか、平社員か」

じいちゃんはそうか、そうかと何回か呟く。

「お前、花はもう興味ないのか?」

「花?」

そう復唱して、あぁ、あのことかと思い至る。

「小学生の頃、夢だっただろう?花屋」

やっぱりと思った俺は苦笑した。

俺は昔から、綺麗なものが好きだった。

宝石だったり、花だったり、言葉だったり、とにかく女の子が好きそうな綺麗なものが好きだった。

そんな中で、存在も意味する言葉も美しい『花』というものに幼い頃の俺はすぐに夢中になった。

本棚にあるのは、植物図鑑や花言葉集、それにまつわる物語ばかり。

必然的に俺の夢は花に関する仕事がしたいと思うようになり、「花屋になる」と言う目標が生まれたのだった。

「もう子供の頃の話だよ」

「そうか」

俺がそう言うとじいちゃんは少し落胆したような表情をしたがすぐに戻ると口を開いた。

「もうすぐ着くぞ」

その言葉と同時に景色が一面の田んぼから建物に変わる。

「なんか、少し活気付いた?」

なんだか地元の雰囲気が明るく、色づいたように思える。

よく見ると、所々に鮮やかな花が飾っているのが分かった。

「じいちゃん、あれ」

「あぁ、この近くの花屋のもんだな。人気の店なんだ」

指を指して問えば、そう返ってくる。

「花屋?へぇ、新しくできたのか」


「最近じゃあないがな」

地元の前とは違う活気の良さに夢中になっていた俺は、最後のじいちゃんの言葉は右から左に流れていった。