「あ、の、私……こんなに幸せでいて、いいんでしょうか」

 「は……? 幸せだって、思ってくれてんの? 俺といて」

 「う、うん。天新くんと一緒にいて、幸せだな……って、ふぐ」



 ぎゅっと、力強く彼の身体の中へ包まれた。

 ふわりと甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。



 「てか、キスよりこっちのほうが先だったわ。順番ミスった」

 「私はそれでもいいよ。どっちも、天新くんがしてくれたなら」



 上を見上げた途端風が吹いて、明るい茶髪の前髪から瞳が覗く。

 だけどそれは、遠くを見ていた。



 「なあ、俺のこと、まだ怖かったりするのか」



 不安そうな声。

 怖かったりするのかって……見透かされてたんだ。

 私、言っていないはずなのに。……少し怖いって、思ってしまっていたこと。



 「……怖くないよ、大丈夫。怖いと思ってたことは本当だけど……でも全部含めて今は、好き」



 "怖いと思っていた”のは、ただ言葉の意味のままじゃない。

 思ったからこそ、好きになったのかもしれない。

 私自身も、よくわからないんだけど。



 怖いと思ってたのに優しくされたから、なんて理由じゃない。

 心の奥底で、私は惹かれていた。



 「ありがとう、砂苗」



 天新くんが、目を細めて笑う。

 こんなに好きでいてくれることを知ったら、私……これから先どれだけ鼓動の音をを甘く振り回されても、いいよ。



 だけどね。

 私だって、君の心を甘く乱したいんだ。