あ……教科書とか筆箱とか、何も持ってないっ!
手ぶらの私に気が付いたのか、湯山くんが開いた教科書を私のほうに寄せてくれて。
「いい。見せてやる」
「湯山やさし~」
「あの湯山が~」
「うるせーお前ら。……ほら、お前はシャーペン貸してやれ」
「はーい」
忘れたのは、私が悪いのに……。
「……あ、ありがとう……ござい、ます」
緊張しながらお礼を言うと、ちょっと不機嫌そうな顔の湯山くんが口を開く。
「いや、なんで敬語。同級生なんだし気使わなくていいから」
……って、当たり前みたいに言った。
その言葉は、湯山くんにとってはただの一言かもしれないけど、私にとっては雪が太陽で溶けるほどにあたたかかった。
……少しだけ、怖いかもっていうのが、第一印象だったけど。
これじゃあ優しいのか、そうじゃないのか、全然わからない。
だけどきっと……優しいんだろうな。
言葉とは裏腹に、誰もいなくなった教室で、私のことを待っていてくれた。
申し訳ない気持ちなのに、うれしい気持ちもあって。
私がこのとき、前の席の湯山くんに心を振り回されている気がしたのは……たぶん、本当だ。



