「ゆ、湯山(ゆやま)くん」



 突然だけど私は今、プチピンチに襲われています。



 現在の時刻は4時過ぎ、つまり放課後。教室に人はいない、静かな時間。

 あ、でも、誰もいないわけじゃない。もちろん私がいる。それに……。




 私の後ろの席の湯山天新(てんしん)くん……と、教室に二人っきり。

 湯山くんは、私が少し気になっている人。少し怖いけど、優しい。




 今日は二人で日直。だから私は今、日誌を書いていたんだけど。

 日直の欄に、その湯山くんの名前がないことに今更気が付いたのだ。



 私が頑張って筆跡を似せればいいのだけれど、それはちょっと嘘をついているみたいで良心が痛む。それにきっと、提出したときに担任の先生にバレると思うし。



 それで私は、湯山くんにしっかりと名前を書いてもらおうと思ってたんだけど。