「ミナトくん、オッケーです」



ディレクターさんが言った。




はっとして目を開けた。


五感の全てを耳に集中させていたらしく、急に現実に引っ張り戻された気がした。


ヘッドフォンを外すと、レコーディングルームの厚い扉が開かれる。


気圧が違うのか、空気が流れ込んできた。






終わった………んだ。





数人のスタッフがどやどやと入ってきて、ひょいっと顔だけ出したディレクターさんが手招きする。



「ミナトくん、お疲れ様!こっちおいで」




足が少し震えていて、歩くことに神経を集中させなくてはならない程だった。




証明が少し落とされたレコーディングルームより、スタジオ側はやけに明るい。




絨毯ばりの柔らかな足元が、急に固い床に触れた。




「ミナトくんお疲れ様〜!」



テーブルに飲み物を用意していた遠山さんが、明るい声で出迎えてくれる。



「あ、ありがとうございました!」


僕は慌てて頭を下げて、そして涼さんの姿を探した。




「こっちで休んで、喉休めないとね」



姿を探し出す前に、促されてソファーに座らされた。




涼さんは……?



キョロキョロしていると向かいに遠山さんが腰掛けた。




僕は思い切って聞くことにした。



「あの、涼さんはどこに?」




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