ヘッドホンからミナトくんのために編曲されたSAYYOU~の前奏が流れた。
その間閉じていたミナトくんの目がパチリと開かれて歌い出した瞬間、初めてオレのギターを伴奏に歌ったあの時とは歴然とした違いを感じた。
目を見張ったオレにKouが頷いた。
――上手くなった…。
オレが欲しいと思った声質はそのままに、発声は谷仕込み。
それに元々ピッチは正確だった。
テンポが速められている編曲は、よりロックらしく、もう1つの新曲がミディアムテンポだけにメリハリをきかせている。
どうなるかな、と一抹の不安があったが消し飛んだ。
きっちりロックじゃん、という感じ。拍子抜けするくらいに。
歌い終わってミナトくんは大きく息をはいた。
1度の通しでレコーディングが終わることは有り得ない。
有り得ないけど…
経験上、一番最初が結局一番良かった、なんてことはある。
案の定ディレクターも
「涼くん、どうしようか?すごく良かったと思いますけど」
と困ったように楽譜をパラパラめくってみせた。
特に撮り直したいところは無い、というワケだ。
「そう…だよね、じゃあ次をやってみて考えてみます。バランスもあるから」
「ですね、了解です」
ディレクターがスタジオに入っていった。
ミナトくんはどうだったのかな?という不安でいっぱいの顔をしている。
「良かったヨの一言くらいかけたげなよ」
Kouが言ったが無視した。
声をかけたら崩れてしまうような、危ういバランスのように思えたから。
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