「あ、遠山さんですかね?」
自分の携帯で時間を確認したミナトくんが、飲みかけのカップを置く。
「多分。でもすぐ来ないだろうから、まだ大丈夫だよ」
立ち上がって携帯を取り上げると、液晶に表示されていた名前は意外なことにKouだ。
「ハイ。どうした?」
不思議に思って耳を澄ますと、笑いを堪えているような声が聞こえて来る。
「涼?おはよ~…
すぐ出たってことはちゃんと起きてた?」
「――はぁ?起きて朝メシ食ってたけど、何なんだよ?」
訳が分からない第一声に顔をしかめると、Kouはそれに答えず、電話の向こうではガサゴソと物音がする。
不快さに耳から遠ざけると違う声が聞こえてきた。
「あ…涼?おはよう、私だけど…
今ね、Kouを拾った所…
そっちに寄ればいいかしら?」
妙に押し殺したような声の遠山だった。
ますます不審に思いながら首を振る。
「いやオレも車出すから。そろそろ出るけど…
お前何で自分で連絡寄越さないワケ?」
「…別に、私運転中だし。…それより、ミナトくんの様子はどう?平気そうなの?」
オレはチラリと後ろを振り返った。
慌てたように残りのトーストを食べている横顔が見える。
「それは大丈夫だと思う。んじゃ後でスタジオでな」
遠山の様子に釈然としないまま電話を切った。
携帯をポケットにねじ込みスツールに座り直すと、ミナトくんはもう食べ終わっていた。
「もう、行きまふか?」
口はまだもぐもぐ動いている。
本人は至ってマジメなのが余計に可愛い。
「ん、あと10分もしたら出ようかな?
慌てさせてゴメンね」
いえ!というように手を振ってミナトくんは咀嚼を終えた。
「ごちそうさまでした。ありがとうございます!」
そう言ってきびきび後片付けを始める。
それから準備を慌しく終えてオレ達はマンションを出た。


