♪
ドアを前にして、ノックしようと持ち上げた手を空中で停止させた。
昨夜手早く着替えやタオルを渡して、好きに使ってと言い残しさっさと自室に引きこもった後は、彼がここに居る事実を頭から追い出すのに必死だった。
寝ることに集中して、起きてからもシャワーを浴びたり朝ご飯を作ったりして思考を停止させていた。
考えるとロクなことが起きない。
それは昨日よく分かった。
だけど全部投げ出すと本能がもっとロクなことをしない。
平常心だ。
誰にともなくオレはつぶやいた。
まだ寝てるかな?
と遠慮がちにノックした。
ドアは異常にすばやく開いた。
「おはようございます」
目の前にミナトくんが立っていた。
猫っ毛をボサボサにして、だけど目はパッチリ開いていた。
オレは早速飛びそうになった平常心を2.3歩退きながら取り戻した。
心臓に悪い!
「お、はよう…
あんまり睡眠取れなくて悪いけど、よく眠れた?」
よく分からないことを口走ってしまう始末。
でもミナトくんはにっこり笑った。
「グッスリ眠れました。顔洗って来ます」
そうしてパタパタと廊下を歩いて行った。
オレのTシャツとスウェットパンツで…


