涼さんに抱きつきたい。
そんな衝動に駆られた。
怒っているように感じた涼さんの気持ちが、そうじゃない、と直接言葉で否定されるよりも心に伝わって来る。
知りたいと思った答えは、実はシンプルなのかもしれない。
そして同時に僕は今、自分の気持ちの理由を知った。
こんなにも僕を大事に考えてくれる涼さんが
本当はきっと最初から、僕は好きだったんだ。
憧れだけじゃ、もうない。
苦悩のままうつむいている涼さんに、僕は近づき隣にしゃがんだ。
「ありがとうございます。
涼さんがそんな風に怒ってくれて、何だか不安が一瞬で消えました。
みなさんがもし許してくれるなら、もうくよくよしないで僕はもっと頑張ります。
僕に、ヴォーカルを続けさせてくれますか?」
驚いたように目を見開いた涼さんは、瞬きを繰り返してやがて微笑んだ。
「――モチロン。
もっと頑張るって言葉、明日も忘れるなよ」
それからニヤリ、と形のいい唇を歪めて意地悪な顔を作った。
いつもの、涼さん…。
憑き物が落ちたようにホッとした。
離れていた間の距離が埋まったような安心感。
近くにある整った顔を、また前のようにじっと見つめられる。
涼さんも何も言わずに僕を見ていたので、数秒ただ僕達はお互いを確認し合っていた。
涼さんが好きです…
なんて、無言で言ってみても伝わらないけど。
そんなこと、伝えられるワケもないけど。
そう伝えていたかった。


