人と人との関わりを避けて生きてきた僕は、元々他人の感情を読み取るのは苦手だ。
怒らせるくらいなら、無関心でいた方が楽だと思う。
だけど、もう僕の中では無関心でいられない、何とかその思いを読み取りたいとする涼さんは、最も難しく複雑なブラックホールのようだった。
怒らせたくない。
失望して欲しくない。
それに何より
嫌われたくない。
そう思うのに、まるで僕を天国に連れて行ってくれるような時も、地獄へ突き落とすような時も、なにもかもが分からなかった。
それだけで僕は泣けて来る。
こんなに知りたい、と思っているのに。
ドンッ、と床にこぶしを叩きつける音がした。
僕の心臓は緊張に激しく動悸した。
「――ミナトくんは、なんでここに来たの?
オレだけが、ミナトくんのことを全部知ってるから…だろ?
アイツを、有本を排除しないと、ミナトくんの平和はまた崩れる。
そんなの我慢出来るかここまで来て?」
「それは…」
「オレは我慢出来ない」
答えようとした僕を遮って、涼さんはキッパリ言った。
「オレは我慢出来ない。アイツが君の何を知ってるかなんて、もしかしたら客だったのかもしれないなんて、聞きたくもない。
キミに気づいたアイツが、仕事中どんな目で見ていたか考えるだけで殺したくなる。
それでなくても、アイツは最低なヤローだ」
僕は言葉の意味を飲み込むだけで頬が熱くなった。


