僕を振り返った涼さんは苛立っているようだった。
そりゃ…そうだよな。
僕のためにもみ消そうとしてくれているんだから…
だけど、これから先もこんなことが無いと言えない。
僕はやるべきことをやらないで来てしまったんだ。
遠山さんは逆に安心したように立ち上がった。
「さっそく連絡を取るわ。明日の集合は2時間繰り上げて9時にしましょう。
私はこのまま事務所に戻って社長と話すから…
ミナトくんは帰りなさい。送るわ」
促されたけれど、涼さんのことが気になった。
2人だけで話したいと思った。
このまま明日になってしまえば…
皆の前でバンドのメンバーとして向き合う前に、だって僕はあれからずっと会えなかったんだから。
ちゃんと涼さんと話したい。
「ああ、遠山…
ミナトくんにまだ話があるから。
明日はここから一緒に向かう。8時に一回連絡寄越せ」
「え?」
意外な言葉に見上げると、玄関に向かった遠山さんの方を見ていた涼さんの表情は分からなかった。
遠山さんは数秒、返事をしなかった。
「そう分かった」
間を置いて頷き、僕には何も言わずに遠山さんは出ていってしまった。
部屋は2人きりになった。


