1ヶ月近く滞在した、スタジオに程近いホテルには私物が溜まっていた。


明日はレコーディング。


やっとマンションに帰れる時が来てオレは荷物を片付け始めた。
傍らでは駆けつけた遠山がブツブツ文句を言いながら手伝ってくれている。



「もぉ!靴が何でこんなにあるのよ!2足もあれば十分じゃない!」

積みあがった箱に乱暴に靴が収められていく。
実際その訴え通り、履いた靴は2足だけだった。


「でもお前、マンションに帰らなくてもいい準備をしろって言ったのは誰だよ?」


一応反論してみるものの、ツアー移動でも常に荷物が異様に多くなってしまう癖は自覚している。


遠山はジロリと睨んだだけでまた箱を空けては靴を突っ込む。



チェックアウトまで時間が無かった。


荷物の運搬にやって来た業者にも手伝ってもらい、トラックに全部押し込むと朝から空腹感に襲われた。




「さーてと。オレ明日まではオフでいいんだよな?」


地下駐車場に止めたままだった愛車の後部座席に上着を投げ入れて、遠山を振り返った。

遠山は自分の車にすでに乗り込んでいて、エンジンを掛けると窓を下ろした。



「明日まで……
レコーディングまでミナトくんに会わないつもり?
これから初めての取材が2件入ってるのよ。
不安そうにしてたけど?」


少し咎めるような顔をしている。


オレは首を振った。


その理由は説明する気になれなかった。

遠山はまた無言で睨むとタイヤのゴムを軋ませ出て行った。