門前には、カラフルなドレスに身を包んだフルラ国の貴族数人と、何十人もの兵士が直立不動のまま整然と並んで待っていた。

 豪華な衣装を着た貴族たちの後ろから、十代半ばくらいの女の子が現われた。

「フルラ国へようこそ」

 彼女は一人だけ黒いドレスでデザインも質素だった。肌は白い真珠のように内側から光り輝くようだ。腰ほどまで伸びた長い髪は、赤く燃える月を静かな夜が包み込んだような色をしている。

 瞳の色は紫。そして赤い唇。耳元には髪色と同じ、炎を閉じ込めたようなガーネット鉱石のイヤリングが揺れている。グレシャー帝国では見たことがない、美しく神秘的な彼女は、夜空に浮かぶ月のようで、リアムは一瞬で目を奪われた。

「お初にお目にかかります。あなたが、ガーネット公爵令嬢ですね?」

 叔父の言葉にまばたきを繰り返した。ガーネット公爵は魔女の末裔だ。
 これからが教えを()う相手で、もっと年上の女性だと思っていた。彼女はにこりとほほえむと、スカートの裾を手で持ち、お辞儀をした。

「お初にお目にかかります。グレシャー帝国大公殿下さま。そして、リアム殿下。クレア・ガーネットと申します」

 クレアのあいさつは上品で、あまりの可憐さに見とれた。

「クレアさま。これが我が甥です。どうぞ仲よくしてあげてください」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。殿下」

 クレアと視線が合うと、心臓を跳ねあがった。オリバーの外套(マント)をつかむと、彼の後ろに隠れた。

「リアム。なにしてる。ちゃんとあいさつをしなさい」
「……ルイス国第二皇子の、リアム・クロフォードです。よろしく」

 顔を半分だけ出してあいさつをするリアムを見たオリバーは、自分の頭に手を当て、空を仰ぐと小さく嘆息した。

「クレアさま、申し訳ない。我が甥をよろしく頼む」

 彼女はあまり表情を変えることなく、こくりと頷いた。

「庭園で歓迎セレモニーの準備ができております。どうぞ」

 リアムたち一行はさっそく会場へ案内された。