ゆっくりとベッドに膝を乗せ体重をかける。本心は逃げだしたい。おそらく顔は、熟れたりんごみたいに赤い。

 部屋は薄暗い。顔色の変化はわからないと自分に言い聞かせ、それよりも早く処置をしようと、ミーシャは暖炉から炎の鳥を数羽、呼び寄せた。

 前屈みになって、リアムに近づく。

「陛下。弱っているなら早く言ってください」
「このくらい平気だ」

 ミーシャは炎の鳥を一羽取りこむと、朱く染まった手でそっと、彼の胸に押し当てた。

「強がりはいけません」
「いや、本当にこのくらい大丈……、」
「素直じゃないですね。治療に協力してくれるんでしょう? 前にも言いましたが、患者さん本人が前向きに治す気にならないと、良くなるものも良くなりません」
「弱ってないって言ってるだろ」

 リアムがいきなり起きあがったため、傍にいた炎の鳥は驚いて飛び立った。彼はミーシャの手を引くと、ベッドに仰向けに押し倒した。

 シーツの中に背中が沈む。天井ではなく、リアムのきれいで整った顔が視界いっぱいに映る。なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。
 
「これでわかった? 弱ってなんかいない」

 遅れて顔が熱くなった。
 リアムは低く甘美な声で、ミーシャの心を弄んでいる。
 恥ずかしくて、悔しくて、下からリアムを睨む。なんとか起きあがり逃れようと力を入れる。しかし暴れるほどに、身体を固定してくる。両手はベッドに縫い止められてびくともしない。

「このまま、朝方まで起きていられる体力はある」
「この態勢で? 絶対いやです!」
「……絶対いやって」
「だめです。陛下は横になって寝るべきです」

 リアムはふっと笑った。

「こんな状態で、まだ俺の身体を心配しているんだ?」
「あたりまえでしょう? 遊んでいないで早く温かくして寝てください」
「温かくして寝ろか。まるで子ども扱いだな」
「さっきから私を子ども扱いしているのは陛下でしょう? 仕返しです」
「……ははッ」

 大人になった彼が声を出して笑うのを初めて見た。