「私への忠告、痛み入ります。陛下の心を、クレアが占めていることは存じあげています。だからこそ私は、ここへ参りました」

「……陛下の寵愛を期待していたのでは、ないのですか?」

 ミーシャは「まさか」と否定すると、彼女から目を逸らさずに伝えた。

「ナタリー嬢はやさしいですね。私が、陛下に傾倒する前にあきらめたほうがいいと、忠告してくれた。その心が嬉しいです」

 長椅子から立ちあがり、彼女に近づく。

「どうか、安心してください。私は寵愛をいただけないからと傷ついたりしないし、陛下を傷つけることもない。未熟な魔女ですが、陛下の負担を少しでも軽くできればと思っております。だから、これからもぜひ、仲よくしてくださいね」

 ほほえみながら、ミーシャは手を差しだした。

 ナタリーは大きな瞳でじっとミーシャを見つめた。警戒しているのか、それとも魔女に触れるのがいやなのか、会ったばかりで打ちとけるのは無理だったかと、あきらめて手を引こうとしたときだった。

 彼女はふわりと笑った。ミーシャの手を両手でしっかりと握る。

「わたくし、正直ミーシャさまの覚悟に驚いていますわ。病弱で社交会に出てこないと聞いていたのですが、想像していた令嬢とは違って、すてきでした。わたくしたちは陛下を想い、尽くそうとしている。同じ目的を持った者同士ですわ。こちらこそ、仲よくしていただけたら嬉しく存じます」 

 たおやかに笑うナタリーの肩越しに、リアムが戻ってくるのが見えた。

「紹介をする前に打ち解けたようだな」
「我が偉大なる陛下。このたびは誠におめでとうございます」

 ナタリーは頬をうっすらと赤く染めると、淑女の礼(カーテシー)をした。

「二人、話が盛り上がっていたようだが?」
「陛下想いのご令嬢と、意気投合しましたの」

 ミーシャが口を開くより先にナターシャが答えた。

「ナタリー嬢と意気投合か。それは怖いな」
「あら陛下ったら、怖いなんて失礼ですわね」

 二人の会話は弾んでいて、割り込めない。
 リアムの婚約者候補だったナタリーとは、幼なじみというだけあって、気心が知れているようだ。
 自分の知らない彼の顔を見ることができて嬉しいはずなのに、疎外感となぜか、寂しさを感じた。