「初めまして。ナタリー嬢。お目にかかれて光栄です」

 ナタリーは、淑女らしく静かに近づいてきた。
 一瞬、立ちあがって出迎えようとしたが、自分はフルラ国の公爵令嬢で、陛下の未来の妃だったと立場を思いだし、そのまま座って待った。

 ナタリーに会うのは初めてだが、彼女の存在はクレア時代から知っている。兄のジーンのように優秀だ。

 そして、彼女は幼いころからリアムの『妃候補』だった。

 ミーシャの傍まできたナタリーは、桃色の小さな唇を開いた。

「令嬢の神秘的なドレスは、陛下がお選びになったと伺いました。とてもすてきですね」
「ありがとうございます」
「黒いドレスは、白いあなたさまの肌を際だたせて、とても美しいです。見入ってしまう紫の瞳、髪が宝石のガーネットのような赤であれば、かの有名な大魔女そのものですわね」

 ミーシャを見極めようとしているのか、ナタリーの瞳はまっすぐだった。姿勢を正し、彼女と向き合う。

「ガーネット家はみな、紫の瞳をもって生まれるんです」
「あら、そうなのですね。わたしくしはてっきり、令嬢が大魔女クレアにそっくりだから、リアムさまはあなたを妃として選んだと思っておりましたわ」

 猫のようなナタリーの釣り目が大きく見開かれた。ミーシャは一息ためてから口を開く。

「陛下の御心は崇高すぎて、私にはわかりかねます。ですが、一つだけ思い当たることがあります」
「まあ。思い当たる理由はどのようなものですの? 教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「陛下からお言葉をいただいたんです。婚約を断ってくるから、ちょうどよかったと」
「婚約を断っ……え?」

 固まってしまったナタリーにミーシャは、にこっと笑いかけた。