部屋の真ん中、一番目につくところには、星空を思わせる黒に近い紺色のドレスがあった。裾に向かうほど小さな宝石がたくさん散りばめられている。

「そちらのドレスは陛下がお選びになったドレスです」

ユナの説明のあとに、サシャが口を開く。

「イヤリングとネックレスは、よかったら陛下の瞳の色に近い、サファイアをお勧めいたします」

ミーシャはユナとサシャに笑みを向けた。

「すてきな提案ね。ありがとう」
「ミーシャさま、今日は思いっきり、飾りたてますからね。覚悟してくださいね!」
「わかってるわ。ライリー」

前世のときから自分を飾りたてるのが好きじゃなかった。だけど、今夜ばかりはしかたがない。ミーシャは苦笑いを浮かべつ つ、頷くしかなかった。

「ユナとサシャも、支度を手伝って?」
「はいっ」
「かしこまりました」
 
ユナはドレスを、サシャは身につける装飾品のチェックをはじめた。

お花の香りがする風呂で汗を流したあと、ライリーが髪を結い上げた。左側の襟元だけ一房、残してたらす。シンプルなお花のヘアドレッドを乗せて完成だ。

質素に目立たないように生きてきた。ミーシャとして自分を飾りたてるのは初めてで、鏡に映る自分を見ていると、なんだか落ち着かなくなった。

「ミーシャさま、長旅と支度でお疲れですよね。遅くなって申しわけございません。軽食と、お茶をお持ちしますね」

ユナがぺこりと頭をさげる。サシャもミーシャのもとへ来た。

「私は、片付けをしますが、ご用があればお声かけくださいませ」

ミーシャはてきぱきと動く二人を眺めた。
ユナとサシャは優秀だとすぐにわかったが、人手不足でばたついている。手伝おうと何度かしたが、ライリーに断られた。

――陛下の婚約者に、侍女二人だけは少なすぎる。きっと、サシャとユナ以外は魔女を恐れてやりたがらなかったのね。

怖いもの知らずか物好きか、二人がなぜ魔女の侍女になってくれたのか理由はわからない。ただ、ちゃんと仕事をしてくれる彼女たちにミーシャは感謝でいっぱいだった。