「令嬢。万が一、治療がうまくいかなくても、気に病むことはないからな」

 どの薬草を使ってみようかと、あれこれと考え込んでいたミーシャは顔をあげた。

「公爵令嬢。あなたが俺を心配してここまで来てくれたことには感謝する。だが、前にも言ったが俺は、生きながらえようとは思っていない」

 胸に、殴られたみたいな痛みが走った。彼をきっと睨む。

「陛下のその考えも、改めていただきます」

 強い口調で言い返すとリアムは目を見開いた。

「俺に指図するというのか?」

 十歳年上の成人した男性、しかも皇帝であるリアムにすごまれて、正直怖い。しかし、元師匠のプライドにかけて、怯まずに見返す。

()がために、自らを犠牲にしようとする陛下はとても立派で尊敬いたします。ですが、限度というものがあります。陛下に負担を強いてまで救われてたとして、みんなが喜ぶでしょうか?」

「だが、王家の俺がやらねばならない。甥のノアにはさせられない。帝国の民すべてを守れるのなら、この身体がどうなろうとかまわないんだ」

 リアムは炎の鳥を空中へ手放すと、立ちあがった。

「令嬢は病の緩和と、魔女の印象を良くするように務めてくれるだけでいい。春になれば国へ帰ってもらう」

 それはつまり、用がすめば帰れということだ。
 フルラには戻る。だけどそれは、リアムを治してから。

「陛下、おかけになってください。まだ治療の途中です」
「もう十分温まった。俺は執務に戻る。令嬢は夜のお披露目パーティーまで休まれよ」
「まだ不十分です、陛下!」

リアムは制止を無視して、そのまま部屋を出て行った。

 ――根気よく研究するのは得意よ。たとえリアムに嫌われようとも、しつこく治療方法を探してやる!

 ミーシャは一人、燃えたぎっていた。