「陛下、畏れ(おそれ)多いです!」
「俺には必要ないから、着ていろ」

 リアムは椅子に座リなおした。
「ありがとうございます」とお礼を言ってから、ファーにそっと触れた。

『師匠。寒いならこれを着て』

 小さなリアムもよく、自分が着ていた上着を脱ぎ、クレアに渡してくれた。侍従たちにも『いつも寒い思いをさせてごめんね』と、マフラーや膝かけをあげていた。

 自分のせいで周りの人が凍えるのがいやだから、早く魔力を扱えるようになりたいと言っていた。
 幸せだったころの記憶に触れて、思わず頬がゆるんだ。

「暖かいです。陛下はやさしいですね」
「寒い人が暖かくする。当然のことをしただけだ」
 
 リアムは「本題だが」と話を切りだした。

「来たばかりで申しわけないが、今夜、令嬢のお披露目パーティーをする」
「はい。先日いただいたお手紙で、存じております」

 ミーシャは姿勢を正し、リアムに向きなおった。

「氷の国に一応、短い春がある。半年後の春祭りの日、我々の『婚姻の儀』をおこなう予定だ。普通ならそれまでのあいだに、王家のしきたりや臣下へのあいさつ回り、王妃教育のお復習(さら)いをして過ごすが、きみはしないでいい」

 婚姻の儀を結ぶまでが『白い結婚』だ。仮初めの夫婦で男女の関係はない。

「わかりました。陛下の治療に専念します」

 ――診察と、治療ができるのは春まで。あまり、ゆっくりはしていられない。

 天井を飛びまわっている炎の鳥をミーシャは呼び戻した。

「では、さっそく治療を開始しましょう」
 
 炎の鳥を差しだすと、リアムは目を見張った。

「今から治療をしようというのか?」
「陛下の手、とても冷たかったです。先ほど陛下から賜りました、この暖かい外套と交換です」