――手が、冷たい。

 思わず顔をあげてリアムを見た。目が合った彼は涼しい顔をしている。

 クレアの石碑前にいた彼は装飾品もつけず、質素な服装をしていた。今は豪奢(ごうしゃ)な装いをしている。
 白を基調とした服装で、外套(マント)も白く、やわらかそうなファーがあしらわれている。瞬時に剣を作れる彼は、帯剣していない。
 十分着こんで暖かそうにしている。なのに、彼から冷たい魔力を感じた。

 リアムのエスコートで大広間ホールの奥にある階段をあがる。ジーンと侍女ライリー、そして近衛兵四人を従えて、二階の回廊を進んだ。

「この部屋を使って」

 南向きの明るい部屋だった。一人で使うには広すぎる。
 調度品はどれも上品で高そうな物ばかりだ。天蓋つきの豪華なベッドの左右には、天井までびっしり詰まった本棚があった。難しそうな本ばかり並んでいる。

「令嬢。話がある」

 大きな暖炉の前には、ゆったりと座れる長椅子《ソファー》があり、そこへ座るように勧められた。

 リアムはミーシャの斜め前の椅子に座ると、壁に控えていた侍従たちを部屋からさがらせた。侍女のライリーも退室して、リアムと二人きりになった。

 暖炉には薪がたくさんくべられている。なのに、部屋は寒々としていた。

「陛下。話の前に、炎の鳥を呼んでもよろしいですか?」
「好きにしていい」

 ミーシャは暖炉に向かって手をかざした。赤い炎がゆらりと揺れる。鳥の形になって飛んで来た炎を、両手で受けとめた。

「寒いなら、薪を足そうか?」
「いえ、この子がいれば十分です」

 リアムは炎の鳥に目を向けたがすぐに立ちあがった。コートハンガーからさっきまで身に纏っていた白い外套をつかみ、戻ってきた。ミーシャの膝にかけようとして、炎の鳥が空中へと逃げる。