「気分転換、大いにけっこう。ビアンカの言うようについでに子どもを作れ」

 リアムの怒気がさらに増した。みんながさっと、持っていた防寒具を着込みはじめる。

「みんな、口をそろえて子どもはまだかと言うが、信じられない。ミーシャは子どもを産む道具じゃない! オリバー。あんたにも、子どもについての発言は今後許可しない」

 リアムはミーシャの肩をぎゅっと抱きしめた。

「……ああ、そういうことか」

 オリバーはなにかを察したらしく、苦笑いした。

「これから二人でフルラ国への旅か。いいな。私もまたいつか、おまえと行きたい」
「だめだ。……土産買ってくるから、それで我慢しろ。……また来る」
「ああ、良い旅を」

 冷気を鎮めたリアムは、ミーシャを連れて部屋をあとにした。  


 氷の宮殿の、冷たくて白い通路を二人で歩く。手を繋いではいるが、リアムはさっきからなにもしゃべらず、ミーシャと目を合わせようとしなかった。

 リアムが子どもを欲しがらない理由がわかっていた。
 きっと、『父親』というものがわからないからだ。

 昔リアムは、『父だった先々帝は、子どもを平気で敵国に送るような冷徹な人だった』と言っていた。

 父親との接点は少なく、愛情が気薄だったのは、第二皇子だったからなのかはもう、わからない。魔力の扱いを教えてもらえなかったことが寂しかったと、幼いころのリアムはクレアに教えてくれた。父親への愛情をオリバーに求めた彼の気持ちは痛いほどわかる。

 ――彼の気持ちを大切にしたい。けど……。

 昔のミーシャなら我慢し、胸の内に留めて終わっていた。今は、リアムの気持ちを尊重すると同時に、自分の気持ちも尊重する。
 意を決めると立ち止まり、彼の手を引いた。

「リアム。私も、発言の許可をいただいてよろしいでしょうか?」
「……どうした?」