「陛下。発言の許可をいただきたく思います」
「……許す。なんだ」
 
 ビアンカは背筋を伸ばすと、はっきりとした声で言った。

「カルディアの民は、自由を愛します。風とともに行きたいところへ向かう。陛下、私はノアを縛りつけることをやめました。ノアが望むものを、選ぶ自由を与えたいと思っております」

「それは俺だって同じだ。ノアが望むものはなんだって与えてあげたい。だが、ノアが皇太子という立場は揺るぎない事実。勝手に他国の王になってもらっては困る」

 リアムは毅然とした態度で、否と示した。しかし、ビアンカも息子を守るために引きさがらない。

「陛下がご多忙なのは存じております。本来なら私は口を挟める立場ではございませんが、義姉として、あえて言わせていただきますね。今、グレシャー帝国の王はあなたです。この国を担う未来の王は、あなたのお子がよろしいでしょう。産み育てる責務は、陛下ご自身が担っていただきたい」

 ビアンカの言葉を真摯に受けとめてはいるようだが、覗くリアムの瞳はどこまでも冷ややかだった。

「病を克服した今、俺が皇帝としてしばらく国を治める。世継ぎの件は、変更するつもりはない」

 リアムはビアンカの言葉をにべもなく一蹴した。