今日、ここへ来た理由はオリバーへの見舞いではない。本人に処罰を伝えるためだった。平静を装いながらもミーシャは一度、唾を飲み込む。
 
――ビアンカと、オリバーは通じていた。
 流氷の結界をくぐり抜け、数回にもわたる宮殿への侵入。オリバーがそれができたのは、内部からの手引きがあったからこそ。招いた結果は、カルディア王国の侵攻と、帝都と氷の宮殿への被害に通じている。

――しかし、その証拠は不十分。侍女の目撃情報はあるが、当の二人が、口をそろえてお互いについての関係を否定した。
 オリバーはビアンカを庇い、自分の単独行動だと自供した。ビアンカはノアを選び、オリバーとの関係を断ったのだ。

 イライジャも、利用しただけで首謀者は自分一人。と、オリバーはすべての罪を一人で背負い、裁かれるつもりでいる。

「オリバー・クロフォードの処分を言い渡す。カルディア王国と通じていた人を、そのまま野放しにはできない。魔女の評判を落とす本を流布した罪もある。一生ここに服役してもらい、罪滅ぼしをしてもらう」

 リアムの言葉にオリバーは「ああ」と短く答えた。
「斬首にしなくていいのか?」

「首を跳ねるのは簡単だが、それでは生ぬるい」
 リアムは冷たい目を叔父に向けた。
「楽して、彼女(ルシア)の元へは向かわせない」
「……厳しい処分だな。一生おまえにこき使われるのか」
「そういうことだ。死ぬことは許さない、諦めろ」

 オリバーは胸を押さえ、小さく笑った。
 オリバー大公は、死を望んでいる。しかし、リアムはそれをよしとしない。

「それで。罪滅ぼしとは? 私に、何をさせるつもりだ?」
「ノアの教育係だ」
 オリバーを含め、処分の内容を知らなかったその場にいた者はすべて固まった。

「……私がノアを教育したら、国が傾くぞ」
「叔父さんやノアが国を傾けようとしたときは、魔女がお仕置きをする」
「お仕置きって……」
 ミーシャは思わず苦笑いを浮かべた。

――叔父は、道を踏み外さなければ優秀な人だ。死なせるのはもったいない。今回の騒動の被害は大きいが、事情を知るものはごくわずかな者だけ。……甘い処分だとわかっている。その責任は、俺が背負う。

「次、何かあれば即、問答無用で首をはねる」

 公には処分できなくても、ビアンカ皇妃に対する罰は与えている。ノアを盾に、カルディア王国との交渉の特使にすることで、その罪を償わせている。

 内通していたイライジャに対しては、止めることはできたが、リアムはあえて泳がせていたこと。帝都民の迅速な避難は彼の功労で、その際に、ミーシャの評判を上げていることを理由に、リアムが内々に彼を処罰した。

「オリバー。あんたの名前、オリーブの花言葉は『平和』と『知恵』だろ。回復したら、大いに役に立って貰う」

オリバーは上を仰ぎ見た。顔を手で覆い、しばらくしてから、リアムに向き直った。

「わかった。おまえに生かされた命だ。……陛下のためだけに使い、尽くさせていただきます」

 オリバーはリアムに向かって、臣下の礼をとった。