理解を得られないときは俺も、オリバーのように愛する人を、民よりもミーシャを選ぶ」
「リアム!」
「皇帝に未練はないと言っただろ。グレシャー帝国にはノアがいる。母親で皇女のビアンカもいるし、ジーンやイライジャもいる。(まつり)ごとには関われなくても、オリバーの知恵を借りることはできる。俺たちの存在が、誰にも受け入れられないというならばその時は、二人で生きよう」

 目を見張り固まっていると、リアムはミーシャの頬を両手で包み、唇を重ねた。

「だけど、リアムには大切な人たちがたくさん……」
「その大切な人たちは、きっとわかってくれる」

 ミーシャの脳裏に、ジーンやイライジャ、、ナタリーやノアなど、この国にきて知り合った人たちの顔が次々に浮かんだ。

「温かくて、花や木々が生い茂る色彩豊かなフルラ国の片隅で、ひっそりと生きるのもいいと思わないか? 雪が見たくなったらミーシャのために降らせてあげる。暑いときは氷を作ってあげる。なにも問題はない」

 リアムのやさしさはやはり特別製だ。ミーシャは、震える唇を引き結んだ。小さく頷き、彼の胸に顔を埋めた。

「……リアムが皇帝でも、皇帝じゃなくなっても、私は変わらずあなたが好き。絶対に守る」
「俺にもミーシャを守らせて」

 リアムはミーシャを包みこむようにやさしく抱きしめた。

 そこへ、突然白狼が降って現われ、「ウオンッ!」と一鳴きした。ぱっと離れる。

「……白狼、すまん。わかってる」
「リアム、白狼はなんて?」
「救助はどうした。イチャつくのはあとにしろ。俺たちばかり働かせるなだって」
「……白狼さん、ほんとごめん……」

 二人で苦笑いしたあと、白狼を撫でてご機嫌を取った。

「ミーシャ。フルラ国での隠居生活(スローライフ)は、もしもの時の話だ。今は目の前のことを、やれるだけのことやるしかない」

 ミーシャは頷くと、再び大きな炎の鳥を呼んだ。

「リアム。白狼たちが逃げ遅れた人を探してくれているあいだに一度、帝都を抜けて南に向かいます。避難民のようすを見に行きましょう」
「わかった」

 炎の鳥の背に再び乗ると、高い位置にある月に向かって飛び発った。
 

 帝都の要塞壁を抜けると、点々と四方に伸びる小さな朱い光の列が見えた。夜にもかかわらず、遠くへと逃げる人々だ。それとは別に、帝都の傍で動かない灯りもあった。

 帝都の外へ避難した、たくさんの帝都民だ。イグルーや簡易テントを構えて、寒さをしのいでいた。

「ミーシャ、俺が先にみんなの前に降りる。合図したらミーシャも降りてきて」
「わかりました」

  炎の鳥が高度を下げて飛ぶと、リアムは地上へ飛び降りた。