「あなたが、オリバーが憎いのはね……、彼を、愛しているからよ」

 リアムが身体を強張らせたのがわかった。

「憎いに決まっている。ミーシャを傷つけた。何度も、裏切られた」
「《《大好きな叔父さん》》が、私を、傷つけたから……でしょ?」
「違う!」

 ――手を伸ばし、彼の髪に触れたい。大丈夫だよって頭を撫でてあげたい。
どんなに願っても身体のすべてが重く、指一つ動かせない。

「仲直り、して欲しくて、ここまで来たの」
「……無理だろ」

 ミーシャは「無理じゃない」と彼にほほえみかけた。 
 早く、オリバーを追ってもらいたい。
 そう思う気持ちの反面、あと少し、一秒でも長く彼と一緒にいたかった。

「やっぱり私は、あなたの迷惑になることしか、できなかった」
「そんなことない。心配はかけさせられるが、迷惑だと思ったことはないよ」

 リアムのやさしさはきっと特別製だ。
 ――一方の私は、勝手に飛び出して、勝手に傷ついて、大事な人を悲しませている。なんて、最低なんだろう。
 ……悪い魔女だから、しかたないか。

 リアムを見つめ、声を絞りだして伝えた。 

「悪魔女は、もう終わり。次に目を覚ましたら、あなたのためだけに生きるわ」

 リアムは目を見張ったあと、切なそうに笑みを浮かべた。

「ミーシャ。もうしゃべるな。休め」

 小さく、首を横に振った。

「……リアム。顔を、もっと近く」

 青い魔鉱石の力で激しく降る雪に、命の炎が掻き消されていく。
 ――最後の瞬間まで、あなたの碧い瞳を見ていたい。

「リアム、大好き。……愛してる」

 彼の瞳から、きれいな雫が産まれ、体温を失ったミーシャの頬をあたためる。

「俺は、ミーシャしか愛せない」

 重ねた唇から温もりを分けてもらう。氷の皇帝が与えるものはすべてがやさしくあたたかいと思うと、ミーシャの目尻からも涙がこぼれ落ちた。


  ――……生きたい。死にたくない。幸せになる約束を破りたくない。この人を置いていけない。悲しませたくない。私は、死ねない……!
 
 吹雪に負けそうな小さな火を必死に守る。抗う気持ちとは裏腹に、胸の奥で、命を刻む音が止んだ。

「……炎の魔女は、死なない」

 雪降る真夜中に突然現れたオリバーは、出会った当初からミーシャを殺そうとしていた。それをわかっていて、飛びこんだ。

 ――これは自分が招いた結果。悪いのは全部私。だから、リアム。私が死んでも、自分を責めないで。信じて待っていて。

 また必ずあなたの元へ、舞い戻るから。