「大丈夫、安心して。オリバーはとめる。ミーシャも、必ず救うから」

 ミーシャを抱きしめていたリアムは、その手をゆっくりと離した。
 いつもの落ち着いた声に戻っていると、ほっとしたのは一瞬だった。
 白く滑らかな彼の頬に、雫の跡を見つけた。

――リアム、ごめんね。

「ナイフは、手当てが充分にできるところに移動してから抜く」
 
 ――……悲しませてばかりで、ごめん。

「……ミーシャの肌に、霜が降りている」

 リアムは、ミーシャの両頬を手で包んだ。いつもと逆だ。彼の手があたたかい。

「冷たすぎる。この症状、凍化だ。どうしてミーシャが?」

 彼は冷たいと言うが、もう、寒さの感覚がなかった。

凍化病がこんなにもつらく、怖く、寂しいのかと驚いた。
長くこの病に苦しんできたリアムや王族のことを思って、胸が締めつけられる。
 喉がひりひりと痛い。吐く息は白く、きらきらと凍っていく。まるで、氷の魔女になった気分だと、こんなときなのに小さく笑った。
 リアムはミーシャの背中を見た。

「サファイア魔鉱石が原因? 待ってろ、すぐにとめる」

 やさしく抱きしめながら、彼は背中のナイフに触れた。

「イライジャが手紙を寄こした。俺はサファイア魔鉱石を操れるらしい。ミーシャが凍るのを止められないか試してみたかったが、魔鉱石の部分が体内に埋没している……」

 ――つまり、触れないということだろうか?

 ミーシャには氷への耐性がない。魔鉱石は奪われ、魔力も尽きた。凍化を今すぐに止められなければもう……。

 重たい瞼を閉じた。すると、銀色の世界が浮かんだ。まるで、リアムの髪の色のようだ。
 美しい雪の上に舞い降りた、炎の鳥の朱い灯火がゆっくりと、小さくなっていく。

「リアム、聞いて……」

 ――二度も、残していく駄目な師匠でごめん。許してなんて言わない。
 その代わりに、ちゃんと彼に伝えたい。