「引き付ける?」とイライジャは困惑の声をあげたが、ミーシャはそのまま説明を続けるため、騎士団と兵の隊長たちに目を向けた。

「この地を守る兵士のみなさんは、引き続き凍ってしまった者の救助を。馬で駆けることができる騎士団の方々は、できるだけたくさんの人に川から離れ、少しでも高い場所へ避難するように声かけと誘導をお願いします」

 それを聞いた兵士はお互いの顔を見合わせ、どよめいた。

「グレシャー帝国は広い。この地域だけでも国民は何十万人といます。避難は簡単ではなく、難しいでしょう」

 戸惑いながらも声をあげた一人の騎士を、ミーシャは見た。

「では、あなたはなにも知らずに、氷と水の中に沈みたいですか?」

 どうせ間に合わないと、あきらめるのは早すぎる。時間が許す限り、最善を尽くすべきだ。

「あなたたちの家族は、私より雪と氷の知識を持っている。洪水が起こると事前に知っていれば、避難できなくてもなにかしら対応できる。違いますか?」

 自分たちで切り抜けられるだろうと、期待と希望を氷の国の人たちに押しつけているかもしれない。それでも、無理だとあきらめるよりはいい。

 ミーシャは、兵士を見回した。

「難しいからこそ一刻も早く避難をさせないと。……宮殿の崩壊はあってはならない。ですが、万が一を想定し、今すぐに行動に移すべきです」

 ――戦場を駆け、カルディア兵を迎え撃つはずの騎士団がいきなり現われ、避難を呼びかければ、人もきっと動いてくれるはず。

「……そうですね。ここでなにもしないより、一人でも多く、避難させましょう」

 声をあげてくれた騎士にミーシャは頷きをかえすと、「避難誘導のときには、こう言って下さい」と言葉を続けた。

「悪い魔女が来た。炎で氷を溶かし、洪水を起そうとしているから逃げろ。と」

 イライジャと騎士たちは、目を見開いた。

「魔女が来たと信憑性を持たせるために私は流氷の結界に近づき、氷の狼を引きつけながら、炎の鳥で国中を飛び回ります。なので上流の結界には近寄らないように」