「混ざらなかった魔力が人に害を及ぼしたのね。それで、偽物魔鉱石を持った兵士は命を削られ、我を忘れた。だけど、それなら魔力がある陛下や私はサファイア魔鉱石を扱えるってこと?」

 イライジャは顎に手を置いて黙った。しばらくしてから口を開いた。

「はい、おそらく。陛下は嫌がるでしょうが……今暴れ回っている氷の狼は、オリバー大公殿下が指示を出しているのだと思います。ですが、ただ、反応しているだけ」
「嫌がるかもって、陛下は知らないの?」
「お伝えしたかったのですが、オリバー大公殿下がミーシャさまの魔鉱石を狙っていることを先にお伝えしました。サファイア魔鉱石についてはさっき合流したときに手紙にしたためてお渡ししております」
「わかったわ。今度狼が現れたら、サファイア魔鉱石に触れてみる」

 ――氷像なのに俊敏だった狼に触れるかは自信がないけれど……。

「すみません。これ以上は詳しくわからないのですが、サファイア魔鉱石が陛下を助けるとオリバー大公殿下は仰っておりました」

 今度はミーシャが考え込んだ。

 魔鉱石はもともと、リアムの魔力暴走をいなすために必要だった。でも現状、リアムは魔力を消費しすぎで、身体への負荷の方が問題となっている。

 ――まだ、なにか足りない。大事なピースが欠けている。

「オリバー大公殿下から得た情報はそれだけ?」
 イライジャは「まだあります」と答えた。

「氷の宮殿です」

 ミーシャは首をかしげた。

「ミーシャさまはアイスジャムをご存じないですよね。流氷が川の流れを堰とめ、水を溢れさせる現象です」
「それって」
「はい。今、まさにここがその危機の一歩手前です。我々が凍った兵士を助けている理由でもありますが、それを邪魔しているのが氷の狼。先ほどサファイア魔鉱石は燃やさないほうがいいと申しましたが、このままも危険です」

「アイスジャムって言うのね。それを危惧して私は一人、ここに来ました。それで、オリバー大公殿下の本当の目的はなんなの?」

「目的は、地下の氷をすべて溶かし、氷の宮殿を崩壊すること」
「……氷の宮殿が崩壊すると、どうなるの?」

「氷の宮殿は氷表の上にあります。その氷が万が一全部溶け、流氷の結界に一気に流れ込めば、融雪洪水が起こります。ここは堰き止められているため、我がグレシャー帝国は氷と水に沈み、……滅ぶでしょう」