「……昨夜、陛下に問われるまで私はお伝えしておりませんでした。ですが、陛下は最初から、ご存じだったようです」
「どうして陛下に内緒で近づいたの?」
「陛下はご自分の叔父を憎んでおります。お伝えするときっと、恨みを晴らしに飛んで行く。それでは陛下のためにならないと思ったからです」

 イライジャは、後悔を滲ませながら下を向いた。

「オリバー大公殿下の信頼をまず得たかった。彼の真の目的が知りたかったんです」

「……それで、陛下に黙って近づいて、得るものはあったの?」

 ミーシャの問いに、イライジャは真剣な顔で頷いた。

「サファイア魔鉱石についてわかりました。あれは、燃やして壊さないほうがいい」

 眉根を寄せながら、ミーシャは背の高いイライジャを見あげた。

「なぜです? 先ほど、あなた自身が氷の狼で危ない目に遭ったというのに?」
「それでも。です」

 ミーシャを見つめるイライジャの瞳はどこか切実だった。

「陛下の病を助けると仰ってくれたオリバー大公殿下のお言葉は、本当だと私は今でも思っています」
「陛下の病とサファイア魔鉱石は関係があると?」
 イライジャは頷いた。

 サファイア魔鉱石はクレアももちろん考えた。しかし、できなかった。
 魔鉱石を作るには複雑な条件がそろわなければならない。高温と、高圧、長時間、大量の魔力と精霊獣が必要。
 それらすべてが微妙なバランスを保ってやっと魔鉱石は作れる。

「魔鉱石を作るには高温が必要。だけど冷属性のサファイアは数千度の高温に耐えられなかった」
「耐えられなかったって、ミーシャさまよくご存じですね。まるで作ったことがあるような」

 イライジャはまだミーシャの正体がクレアだと知らない。

「私は魔女の家系よ! そう、聞いたことがあったの」

 苦しい言い訳をしたが、イライジャは「そうですか」と信じた。

「オリバー大公は高温の代わりに絶対零度の環境に長時間サファイア原石をさらし、その上で魔力を大量に注いで作ったそうです。それでもクレアが作った魔鉱石には及ばない。うまく魔力が混ざらないと仰っておりました」

 ――絶対零度に保って作るなんて、炎の魔女の私には無理ね……。