「陛下!」

 オリバーを大きな氷の壁に追いこむと、リアムは突き殺そうとした。だが、これも交わされてしまった。氷の剣がオリバーの外套を貫き、氷の壁に深く突き刺さる。

「リアム、剣技がどんどん乱れていっているぞ」
「うるさい。いい加減に黙れ」

 リアムが優位で押しているのに、まだ余裕を見せるオリバーが気にいらない。

「リアムは冷静で冷酷な氷の皇帝と聞いていたが、やれやれだな」
「…………………殺す」

 オリバーの首を前から鷲づかみした。ぐっと力を入れて叔父を睨むが、返ってきたのは静かに自分を見つめる瞳だった。

「俺が、憎いか、リアム」
「ああ。この世で誰よりも憎い」

 リアムは答えながら首に回した指先に力を込めていく。なのにオリバーは抵抗をしない。

「……それで、いい。憎いなら殺せ。早く!」

 オリバーはほほえむと右手をあげた。手にはサファイアでできた魔鉱石が握られていた。
 そのまま氷を生成している。作られた物がナイフだと気づきリアムが警戒するのと、ナイフが振り下ろされるのは、ほぼ同時だった。

「陛下――ッ!」

 氷の箱を溶かし、抜け出してきたノアが駆け寄ってくる。
 こっちに来るなと、リアムは思ったが声が出ない。すべてがゆっくりと、動いているように見えた。

 雪がきらめきながら舞う。
自分一人だけの、音のない白い世界が好きだった。
 そこへ突然、幻の美しい鳥がふわりと舞い降りる。

 ――ミーシャ。

 美しい炎の鳥でもなく、幻覚でもなく、愛しい人だとわかった次の瞬間、白い世界は、朱い世界に色を変えた。

 オリバーのナイフがミーシャの身体に突き刺さっていく。膝から崩れていく彼女を、リアムは両の手で抱きとめた。