道なりに進むと、開けた空間に出た。炎の鳥が飛んでいく。
天井はとても高く、支える柱は白くて太い。白狼が吠えると音が反響した。

「ここは、氷の宮殿の中央付近あたりか」

 上での地理と歩いた距離、方向から今自分がどこにいるかざっと見当をつける。

「この空間も、普段は隙間なく氷で埋め尽くされているはずなんだが」

 泉の氷を溶かしたのはオリバーで間違いない。氷の宮殿の外で死闘を繰り広げたあと、リアムは流氷の中へ落ちた。そのあいだにここまで氷を溶かしたのだろうと予想をたてる。

――氷は完全には溶けていない。床や奥の空間には大きな氷の塊がそのままだ。あいつは、どこにいる? 目的はなんだ?

 オリバーも俺も氷を解かすのは苦手だ。それなのにこの量を溶かしたとなると、よほどの理由があるはず。
 
「リアム。ずいぶん遅かったな。待ちわびたぞ」

 振り返ると暗闇からすっと、ランタンを手に持つオリバーが現われた。傍には、ノアもいる。
 リアムは手に氷の剣を生成し、いつでも攻撃できるように構えた。

「よく言う。人をここから遠ざけておいて。ノア。その男から離れろ」
「まあまあ待て! ここにいるのは王家だけ。せっかくだ。少し、話をしようじゃないか」
「話す? 俺はおまえと話すことなどない」

 不意をつかない限り、オリバーに氷の攻撃は通じない。リアムは一気に間合いを詰めると、剣を振り下ろした。
 
「陛下、待って!」

 ノアが、オリバーを庇うように腕を広げ、前に出た。リアムは攻撃の軌道をぎりぎりで変えた。氷の剣が床にめり込む。

「このおじさん、陛下や父上を助けようとしたんだって」
「俺や兄を?」

 剣を引き抜きながら尋ねると、ノアは頷いた。
 オリバーの顔には胡散臭い笑みが浮かんでいる。本当に話をしたいらしく、攻撃してくるつもりはないようだ。

「俺がここになにをしに来たのか、知りたくないか?」
「イライジャから聞いた。俺の代わりに皇帝になること。そして、この宮殿を滅ぼす気だと」
「皇帝になりたい男が、なんで氷の宮殿を滅ぼそうとするんだろうな?」

 リアムはオリバーの言葉を聞いて黙った。