「うわあ! びっくりした。白狼ちゃん、驚くだろお?」
「……ジーン?」

 白狼と一緒に、かまくらの中に入ってきたのは、着膨れした宰相のジーンだった。

「ジーン、外に敵がいただろ?」
「ああ。それならイライジャが瞬殺。相手さんは声を出す暇もなかったよ」

 ミーシャたちがかまくらから出ると、イライジャが男二人を伸して、紐で縛りあげているところだった。イライジャはリアムに気づき、すぐに跪いた。
 
「陛下。お待たせいたしました」
「イライジャ、怪我は大丈夫か?」
「大丈夫かって、陛下がつけた傷だろ?」

 ジーンの言葉にリアムはふんっと顔を横に振った。

「どうして、リ……陛下がイライジャを傷つけたの?」

 いつの間に? とミーシャが驚いていると、ジーンがとても楽しそうな顔に変貌し、「説明いたしましょう」と近づこうしてきたため、リアムに足を払われ、盛大に投げ飛ばされた。ジーンは雪の壁にめりこみ、見るからに痛そうだ。

「陛下、ひどい! 横暴!」
「もう一度、投げ飛ばしてやろうか?」
「けっこうです、遠慮します!」 

 リアムがふんと呆れる横で、イライジャだけは真面目だった。

「私の怪我の治療と、出兵の準備で少々遅れてしまいました。申しわけございません。手違いもありまして」
「手違い? なんだ」
「あるお方が、自分も一緒に行くとおっしゃったので連れて参りました」

 イライジャが向けた視線の先を目で追う。しばらくすると雪の壁の影から女の人が現われた。

「……ビアンカ皇妃」