「……あれ、なんの変化もない」

 前回、白狼から貰ったときは、触れるとすぐに魔力が身体に満ちていくのを感じた。髪の色も変化したが今はなにも起こらない。

「今、魔鉱石からは氷の魔力を感じる。色が碧色だと、私はクレアになれないのかも」
「今はなれないだけで、なにか条件がそろえばまたクレアになれるんじゃないか? とりあえず、ミーシャが持っていろ」

 ミーシャは、リアムを見つめながら頷いた。


 外の吹雪を二人で眺めて合図を待つ。

「グレシャー帝国はこんな極寒の土地にあるからか、先代たちはとても野心家だったんだ。次々に隣国を攻め落とし属国、または国を吸収していった。政略結婚も盛んで、そのせいだろう。クロフォード家の血は薄まってしまった。国を治める王家として氷を扱う魔力は持って生まれるが、世代を増すほどに短命になっている」

「政略結婚はフルラでも一緒です。私もエレノアにあなたと政略結婚しろと言われました」

 花が咲き乱れるフルラ国と、エレノアを思い出し、懐かしくなった。

「ミーシャが祖国に戻って、したかったことって?」
「私、表向きは引きこもり令嬢だけど、本当は良く屋敷を抜け出して、ライリーと町に行ってたの。戦争で傷を負ってしまった人たちに薬を作って配ってた」
「……贖罪か」

 ミーシャは頷くと続けた。

「孤児院の子どもたちにもすぐに帰ると約束しちゃったけど、しばらくは会えないわね……」
「なぜ? 今度フルラ国に戻って、会いに行けばいい」
「でも……」
「ミーシャは、好きなことしていいと言っただろ。やりたいことをやっていい。その代わり、きみの居場所はここ。俺の横だ。必ず帰ってきて」

 彼のやさしさに、胸があたたかくなった。守りたい。彼といればもっと強くなれると、溢れる泉のように勇気が湧いてきた。

「ありがとう。リアム、約束する。私は炎の鳥と共に、必ず、あなたの元へ舞い戻る」

 顔を寄せ合い、頷き合ったときだった。

「おい、見ろ! これ雪の壁じゃなくて、かまくらだ!」
「ばか! ……声を抑えろ。グレシャー帝国兵が潜んでいるかもしれないだろ。騒ぐな」

 雪の壁越しに会話が聞こえてきて、緊張が走った。内容からしてカルディア兵だ。リアムは、しっと指で合図をすると、入り口の横に立ち、外のようすを探る。

 白い地面に人の影が映る。次の瞬間、白狼が外へ躍り出ていった。