リアムの護衛の後ろからエレノアが現われた。

「あなたの帰りが遅いから迎えに来てみたの。なんの騒ぎです?」

 リアムは派手に氷と雪を飛ばして敵を捕らえた。そのあと、ミーシャが炎の鳥をたくさん呼んだ。この辺りを統治、管理しているエレノアが異変に気づくのは当然だった。

「ガーネット女公爵。説明は、私がします」

 心配するミーシャをよそに、リアムは踏ん張るように立ちあがると、エレノアに説明をはじめた。


「……つまり、陛下は刺客に気づき、明日のクレアの命日に騒動にならないように今日中に敵を捕まえたくて、部下にもろくに説明せず単独行動していたと?」

 護衛たちは、リアムの命令で少し離れた場所に待機させられていたらしい。

「そうだ。言ったら止められる」
「止めるに決まってます!」

 ジーンは目をつり上げながら、リアムに食ってかかった。

「クレアさまの石碑に一人で行きたいと言うから気を遣ったのに! 皇帝になって約二年。いい加減ご自分の身分とご体調を自覚ください! なにかあったらどうするんですか!」
「ジーン、喚くな。うるさい」

 リアムは煩わしそうにジーンから顔を背けた。ミーシャはそのやりとりをぽかんと口を開けて見ていた。

 幼いころの弟子は、こんな無茶をするような人だっただろうか。もっと聞きわけのいい男の子だったように思う。十歳の彼は従順で明るくて、にこやかだった。

 今の彼は心配して騒ぐジーンとは対照的で、静かでどこか、冷めている。

「ジーンさま。小言はそれくらいにして、そろそろ屋敷に移動しましょう。ここでは陛下も落ち着いて休めない。まだ刺客が現われると大変です」
「ガーネット女公爵。世話をかける」

 日はすっかり暮れて、辺りはまっ暗だった。エレノアも護衛もみんな徒歩か騎馬できている。馬車を今から手配し呼んでいてはかなり遅くなるため、彼の馬が準備でき次第ここを離れ、屋敷に戻ることになった。

 先に屋敷に連絡するため、エレノアが炎の鳥を飛ばす。
 しばらくして、誰よりも背が高い男が人混みを避けて、黒くて立派な騎馬を連れてきた。