「私は、陛下を守りたい。この身を犠牲にしてでも。って、ついさっきまでそう思っていたの。だけど、その考えは間違っていたのね。……大丈夫、安心して。私と陛下は必ずここへ、二人の元へ戻ってきます」

 ユナとサシャはお互いの顔を見たあと、もう一度ミーシャを見て、顔を明るくさせた。

「陛下とミーシャさまの無事のご帰還、心よりお祈りいたしております」
「ありがとう」
「出立の準備で今夜、陛下は遅くなるとご連絡をいただいております。ミーシャさまはお先に就寝なさってくださいとのことです」
「わかったわ」
 
 寝支度を済ませると、ライリーとユナ、サシャは部屋を辞した。
 暗い部屋でしばらく本を読んで時を潰した。

 リアムは本当に遅かった。
 夜が更けても目が冴えたままで寝付けず、しかたなくベッドから這い出した。一枚厚手の外套を纏い、バルコニーに出る。

「うわあ……、空が真っ暗」

 静かだった。雪がすべてを覆うように、降り続けている。
 吐く息は白く、暗闇に溶けて消えた。

 ミーシャは炎の鳥を肩に乗せて、リアムにもらったスノードームを眺めた。

「雪って、きれいね」

 いきなり、炎の鳥が闇夜へ吸い込まれるように飛び立った。

「ミーシャ。風邪を引くよ」
 
 声をかけられ振り返ると、碧い瞳の彼が立っていた。

「陛下」

 リアムだとわかった瞬間、鼓動が跳ねた。

 ――やっと、会えた。

 今日一日がとても長く感じた。嬉しくて、思わず駆け寄ってしまったが、彼の前まで行って急に恥ずかしくなった。 
 視線を喉元当たりに定めて、「お帰りなさい」と伝える。

「遊んでいたのか」
「はい。スノードームを眺めながら、遊んでいました」

 リアムは「子供だな」と言って、くすっと笑った。
 視線をあげると、ミーシャに向けられていた眼差しは、雪なら簡単に溶けるほどの温かなものだった。
 
 ――リアムが好き。これはクレアの気持ちじゃない。ミーシャ・ガーネットとして、彼のことが……

 愛しさが溢れそうだった。彼から視線を逸らし、空を見た。