「前世の記憶を持ってはいますが、魔力は残念ながらないに等しいです。なので、なんの力もない、ただの娘ですよ」

 彼女を安心させようと、笑顔を向けた。

「ナタリーさま、ミーシャさまがクレアの生まれ変わりだと言うことは、ここにいる者以外、誰も知りません。ご内密にお願い申しあげます」

 ライリーが割って入った。

「ここにいる者って、……陛下もご存知ないということですか?」
 
 ライリーは「さようでございます」と答えた。

「ナタリーさま、お願いです。今聞いたことは、陛下には言わないでいて欲しいです」

「どうして言わないのですか? 陛下、ずっと、ずっとクレアさまを慕っておいでです」

 声を震わせるナタリーに向かってミーシャは頭をさげた。

「私はクレアの生まれ変わりとして、前世の罪を償う身だからです」

 彼女にわかってもらおうと、まっすぐ言葉をぶつけた。
 
「帝国民は、魔女を嫌っています。婚約者が、復活した悪魔女クレアだと知れ渡れば糾弾してくるでしょう。私を庇い立て、陛下の立場を悪くしてしまう。彼はクレアを慕っている。だからこそ、私の正体は陛下にとって足枷にしかならない」

「庇い立て、させたらいいのです。喜んで、リアムさまの足枷になりましょう」

 はっきりと言い切るナタリーに、驚いた。喜んで足枷になると言う発想がなかったからだ。

「それに、立場など、陛下は気になさらないでしょう」
「でも……、」
「クレアの正体が世間にばれるのがいやなら、帝国民や他の者には隠せばいいわ。リアムさまを含め、一部の者だけ承知していればいい」

「私がこの世に生み出した魔鉱石が原因で、たくさんの犠牲者が出ました。その帝国民に、自分の正体を偽ったままで、本当の正妃にはなれません」
「待ってください。ミーシャさま、リアムさまの正妃にならないおつもりでいらっしゃるんですか?」

 ナタリーは、今まで一番驚いた顔でミーシャを見た。