ナタリーはミーシャと目が合うと、カーテシーをした。お付きの者はなく、一人のようだ。

「ごきげん麗しゅうございます。ミーシャさま」
「お久しぶりですね。ナタリーさま。ちょうどよかった。私、あなたに渡したい物があるの」

 ミーシャは、中に入ってお待ちくださいと、部屋へ案内した。ナタリーが渋っていると、ライリーがドアを開け広げ、頭をさげた。

「私に用があって来られたのでしょう? どうぞお入りください」

 ミーシャが促すと、ナタリーは小さく頷いた。

「少々お待ちになって」と断リを入れて、調合するための作業台へ向かう。すでに準備していた袋を手に取ると、彼女のもとへ戻った。

「エルビィスさまの体調がすぐれないと聞いております。これを、よかったら試してみてください」

 戸惑う彼女の手を取り、薬が入った袋を渡した。

「大丈夫です。陛下の(めい)で作った薬です。毒ではないので安心して。不安でしたら今、私が服用してみせます」

「……私の父のために、薬を作ってくださったんですか?」
「はい。私の取り柄はこれくらいですので。今、飲まれている薬を邪魔するような物は入っていません」

「ミーシャさまは、噂どおり、薬に詳しいのですね」
「はい。 あ、ライリーの淹れる紅茶は美味しいんです。どうぞ召し上がってください」

 ナタリーは袋をぎゅっと握ると、「ありがとうございます」とほほえんだ。


 彼女はライリーに案内された席についても硬い表情をしていた。
 肩の力を抜いてもらおうと、ミーシャが先に紅茶を飲んで見せる。ほほえみかけると彼女もカップに手を伸ばした。紅茶を飲んだあと、ゆっくりと口を開いた。

「陛下から、カルディアとの国境の視察へ、一緒に向かうと聞きました。それで、ミーシャさまにごあいさつをと思って、立ち寄らせていただきました。立ち聞きなど不躾なことをして申しわけございません」

 彼女はぺこりと頭をさげたあと、ミーシャを見た。

「令嬢はクレアさまの生まれ変わりと聞こえてきました。……本当、でしょうか?」

 じっとミーシャを見つめる瞳は真剣で、事実を見極めようとしていた。誤魔化はよくない。ちゃんと答えようと目を閉じて腹をくくる。

「はい、本当です。私は、前世クレアの生まれ変わりです」

 ナタリーは目を見開き、驚いていた。