「わかりますか? 陛下が幸せにならないと、僕はちっとも幸せじゃないってことです。だからどうぞ、陛下はミーシャさまと幸せになってください」

「な……」
「なぜとか聞かないでくださいよ。私が陛下をお慕いしていることはご存じですよね」

 ジーンはにこりと笑った。

「幼少期からあなたさまの傍にいるですよ。つらい目にたくさんあってきたことを知っています。それでも人のために動く人だとわかっているんです。陛下が幸せになったって、誰も文句など言いません。恋で狂う? 自分勝手で周りが見えなくなる? 大いにけっこう。前にも言ったと思いますが、親友として僕はリアム陛下の幸せを望みます」

 ジーンの想いが、胸に染み入るようだった。
親友で一番の理解者である彼がくれた言葉を、リアムはしばらく考えた。

「なんの話をしているの?」

 ひょこっと顔を覗かせたのは、ノアだった。

「ノア皇子! どうしてここへ?」
「ぼく、遊びに来たらだめだった?」
 
 ジーンの質問に、ノアは遠慮ぎみに訊いた。

「ノアはいつ来てもいいよ」

リアムは小さな皇子に近づくと、前屈みになって彼の額にキスを落とした。よしよしと頭をやさしく撫でる。

「ミーシャのことを話していた」

 ノアはきらきらと目を輝かせながらリアムを見た。

「陛下のお嫁さんだね、ぼく、ミーシャさま大好き! すごくやさしいんだ。庭で会うとね、遊んでくれるんだ。それにいっぱい褒めてくれる!」
「そうか」
「あ、いけない。今日はぼく、お客さんをお連れしたんだった」

 ノアは、廊下に顔をだして「入っておいで」と声をかけた。ノアに手を引かれあらわれたのは、ナタリーだった。