さっきまで顔を青くしていたが今は朗らかに笑っている。いい根性をしていると、リアムは呆れた。

「ミーシャさまはクレアさまによく似ておりますが、髪色が違うせいか、ずいぶんと印象が違いますね」

 リアムは「そうだな」と頷いた。

「師匠は冷静で、落ち着いていたが、彼女は……積極的で、表情が豊かだ」
「クレアさまが落ち着いて見えたのは、陛下が子どもだったからでは? ミーシャさまは十六歳……にしては、達観しているところも見受けられます」 

 外に繋がる城壁の大きな門扉に着くと、リアムは一度振り返った。
 ここからではバルコニーは遠く、よく見えない。それでも、ミーシャの姿を探す。

「令嬢は『太陽に触れても平気』らしい」
「太陽?」
「クレア師匠の口癖だ。ミーシャは『我が家ではよく使う言い回し』と言っていたが、母親のエレノア女公爵からは、一度も聞いたことがない」

 ふとしたときに、言動や考え方に師匠と似たものを感じる。気にしすぎだと思っていたが、どうしてもこの考えが頭を過ぎる。

「ミーシャは、クレアの生まれ変わり。とか」

 強い風が吹き、さらさらの雪を巻き上げる。リアムの横で大人しく座っていた白狼は、風に反応したのか上を向いている。
 ジーンは、うーんと唸ってから口を開いた。

「生まれ変わりは、陛下の願望では? リアム皇子の初恋は、クレアさまでしたものねー」
「……茶化すな」

 リアムはじろりと睨んだ。

 ――たしかにあれは、初めての恋だった。

  リアムはクレアのことを師として尊敬していた。子どもだったが、彼女と対面したときの印象は、いつまでも忘れられない。