ミーシャは無言で首を横に振った。
 恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。離れようと身体を反らすが、拘束は解けない。

「持っていないと言っているのに、信じられないんだろ。だったら、ちゃんと調べろ」
「陛下が、身につけていないことくらい、わかってます。どこかに隠しているんでしょう?」

 ミーシャは彼を下から睨んだ。

「氷の泉の深淵に隠している。違いますか?」
「そんなところに隠さない」
「つまり、どこかにあるんですね?」

 リアムは首を横に振った。

「たとえ、魔鉱石があったとしても、俺は自分のためには使わない」

「陛下、お願いです。どうか、わっ!」

 ミーシャを抱きしめたままリアムは横に寝そべった。

「俺なんかより、きみのほうがやさしい。俺のために本を読みあさり、薬草を探し、スープを作り、マッサージまでしてくれる。緩和治療は十分してもらっているよ」
「だけど私はいずれ、陛下のもとを離れます。その先の準備も必要です!」
「時が来たら、来たときだ。今は傍にいてくれたらそれでいい」

 ――私は十分じゃない!

 じたばたと暴れたが、リアムの腕からは逃げられなかった。しかたなく、彼をぎゅっと抱きしめる。

「私、諦めません。陛下のこと、絶対に死なせませんから」

 魔力でリアムを思いっきり温めながら伝えた。するとリアムもミーシャを抱きしめる手を強めた。

「俺も、もう二度と失いたくない」

 師弟でもなく、夫婦でもない。本来相容れない、炎と氷の関係。だけど、なにに代えても相手を守りたいという気持ちだけは一緒で、二人だけの真実だった。