「怖い夢でも見たのか?」
 
 思考の海に沈んでいたミーシャは声をかけられ、ぱっと顔をあげた。目を覚ましたリアムと目が合って、また、心臓がかってに跳ねた。

「陛下、おはようございます」
「難しい顔をしていた」
「……寝坊したと思っていたんです」
「俺も寝坊だ。温かくて、起きられない」
「まだ寝ててください。そのほうが身体は回復します」

 リアムはミーシャに手を伸ばした。なんだろうと前屈みになると、首の後ろを手がまわり、引き寄せられた。

「ちょっ、陛下?」
「その台詞、そっくりきみに返す。魔力を使いすぎているだろう。休め」

 近すぎる。離れようと手で彼の胸を押したが、びくともしない。猫を相手しているみたいに、リアムの大きな手が頭をよしよしと撫でている。

「私は、炎の鳥から魔力をもらえるんです。だから、大丈夫です!」
「だったら、炎の鳥で俺を温めて」

 そんなことを言われたら断れない。ミーシャは抵抗するのをやめて、リアムの腕の中に大人しく収まった。

「わかりました。いいですよ。私、陛下のぬいぐるみですし。これからは懐炉にもなります」
「懐炉か。たしかに温かくて、手放せなくなりそうだ」

 いままでは、同じ寝台を使ってもただの添い寝だったが、オリバー大公殿下が生きていたとわかってからは、ミーシャを抱きしめることに躊躇がなくなった。

 おかげで心臓は朝から全力稼働だ。これは治療、自分は人間懐炉だと、何度も言い聞かせる。

 おだやかな声で話すリアムとは違い、ミーシャはいつまでもこの状況に慣れないでいた。

 ――治療に前向きになったというよりは、私を、クレアと重ねているのかも。

 よくないな。と思いながらも彼を拒むことはできないし、したくない。

「いつも言っているが、なにか不便があれば遠慮はいらないから」
「ありがとうございます」

 とくとくと彼の心音が聞こえる。
 昨夜のリアムは無茶しそうで心配だったが、今は落ち着いている。ひとまず安堵した。