しゅんとしてしまったマリアベル。
 彼女は本当に、アークライト家が……アーロンが、魔力目当てで婚約を希望していると思っているのだ。
 そんな想い人の姿を見て、アーロンはぼそっとこう口にする。

「自己評価が低いのは、過去のせいかな」

 学院に入るまでの彼女は、鮮血の、なんて二つ名をつけられ、令息には逃げられ、暴力女などと噂されていた。
 きっとそのせいで、自分には結婚相手としての価値はないと思い込んでしまっているのだろう。
 彼女が明るく振舞うからわかりにくいだけで、実のところ、マリアベルの自尊心は――自分が誰かに選ばれるかもしれない、という自信は――すっかり削られてしまっていた。
 昨日だって、アーロンは彼女に「大好きだ」と伝えたはずなのに。その言葉は、マリアベルの深いところには、届いていなかったのだ。

 ふむ、とアーロンは思案する。
 アークライト家のほうが格上だから、マリアベルからこの話を断ることはできない。
 だが、断れなかったから仕方なく、とか、自分なんかでいいのかなと怯えさせたまま、結婚したいとは思わない。

――自身の魅力をわかってもらう努力が必要だな。

 アーロンは、そう考えた。

「ベル。きみは、強く優しく美しく、才能に溢れた女性だ。家のこともあって、貴族としての勉強は遅れ気味だったのに、もう色々な分野で成績上位になっていると聞くよ。そんな頑張り屋なところも、領民に慕われる人柄も、だんだんと学院のみんなにも理解されてきている。きみは、十分すぎるぐらいに魅力的な女性だ。……他の男にとられる前にと、焦ってプロポーズしてしまうぐらいには」
「アーロン様……?」
「きみは気が付いていないみたいだけど……。今となっては、きみに婚約を申し込みたい男は、いくらでもいる。……僕も、その中の一人。けれど、きみを想っていた年月でも、気持ちの強さでも、他の男に負ける気はない」

 アーロンは、マリアベルの手をとり、そっと口づける。