マリアベルはまだ、イエスもノーも言っていないし、婚約の打診にも現実感が持てていないのだが、家族はもう完全に婚約決定ムードである。
 末の弟など、「姉さんの貰い手があってよかった」などと言いだす始末だ。
 めでたいめでたいと繰り返す家族に押されていたマリアベルであったが、夕食の途中、流石に流されっぱなしではいられなくなって。

「ちょっと……ちょっと待ってくれません!? 私抜きでお祝いモードにならないで!? お父様、まず、アークライト家から婚約の打診がきたという話は、本当なのですか?」
「なんだベル、照れてるのか? アーロン様とは長い付き合いだからな。急に婚約と言われて、恥ずかしいのかもしれないが……」
「いえ、だから! 本当に婚約の話がきたのかと聞いているのです!」
「本当だよ? 今日、アークライト家から『マリアベルに婚約を申し込みたい』と封書が届いたんだ。後日、両家で話す機会を設けるから……」
「何故アークライト家が私などに!?」
「何故って……。なあ」

 マニフィカ伯爵は、妻、息子たちと顔を見合わせ、肩をすくめる。
 そんなの、言うまでもないじゃないか。やれやれマリアベルは。――そんな様子である。
 この場で、どうして婚約を申し込まれたのかを理解していないのは、マリアベルのみだった。
 アーロンがマリアベルに惚れ込んでいることは、マニフィカ家一同にもバレバレだったのである。

 この国の貴族は、10代半ばほどで婚約を結ぶことが多い。
 王立学院に通うのは、16歳になる年からの三年間だから、学生になる少し前か、在学中に婚約相手を決める者がほとんどだ。
 だから、1年生のマリアベルと2年生のアーロンであれば、婚約の時期としては妥当。
 アーロンの気持ちを知る者たちからすれば、やっと動いたか、といったところではあるが。

「こういうことですか、アーロン様……」